――そうだ。思い出した。

 岩場のイソギンチャクを触っていた、身なりの良いお兄ちゃん。
 話しているうちに、父が来て歌い出した。
 私も一緒に歌うと、ハルカと名乗ったお兄ちゃんはそれを不思議そうな顔で見てたんだ。
 
「ハルカのYouは、誰?」

 その時の彼は、「分からない」と答えた。

 けれど。

「今のYouは、依恋、君だよ。ずっと前から、君が良かった」

 向けられた微笑みに、胸がドキリと高鳴って。

 私のYouは父だった。母だった。
 けれど、今は――

 この気持ちを伝えてよいのか。
 言い淀んでいると悠賀様がまた口を開く。

「僕は君の隣で、幸せを作りたい。それでは、だめかな?」

「――こんな私でいいのですか?」

 自信がなくて、こんな言葉しか返せない。
 夕日を前に、うつむいてしまう。
 悠賀様の顔を、見ていられない。

「そんな君だから、いいんだよ」

 悠賀様が笑った気がして、また顔を上げる。

「僕とお付き合いを、してくれますか?」

 ストレートな言葉に、息が詰まって。
 胸がいっぱいになるけれど、私もきちんと返さなければ。

「――はい」

 言えば、悠賀様の唇が私のそれに重なって。
 すぐに離れていった温もりを、愛しいと、恋しいと思う。

「 ♪you and me, you and me,
   sunset over the sea~  」

 悠賀様はまた歌い出す。
 だから、今度は私も一緒に歌う。

 二人でハーモニーを奏でながら、沈みゆく夕日を寄り添って眺める。
 幸せな気持ちが溢れて、怖いくらいに満たされる。

 けれど、もう怖くない。
 こんなに優しい人が、隣にいてくれるから。


〈終〉