*

 私はオーストラリアのクイーンズランド州、ゴールドコーストの郊外で育った。

 住んでいたのは観光地からは離れた海辺の街。
 波の音の聞こえる家に住んでいた私は、庭を出てすぐの浜辺に降りて遊ぶのが好きだった。

 程よく岩場と白い砂浜がマッチした場所で、岩場のくぼみには満潮の時に溜まった潮水を頼りに生きる、グレートバリアリーフのカラフルで小さな生物がたくさんいた。
 ピンク色に青い触手を持つイソギンチャク。黄色や水色の熱帯魚。

 それらを覗いていると、決まって父がギター片手に浜に降りてくる。
 そして、ゆっくりと夕日に向かって歌い始めるのだ。

  ♪you and me, you and me,
   sunset over the sea~

「Daddy!」

 私はすぐさま父の元に駆け寄る。
 すると、父はもう一度歌い出す。
 だから、私も一緒に歌う。

  ♪you and me, you and me,
   sunset over the sea~

 いつの間にかやってきた母が、私の肩を抱き寄せる。
 それは、みんなで歌おうの合図。
 そうやっていつも、三人でこの歌を歌っていた。

 そんな穏やかな幸せな毎日は、私が10歳だったある日、突然終わってしまった。