「思い出した?」

 目の前にいる彼と、記憶の中のツンとした少年が結びつく。
 けれど、記憶はおぼろげで。

「何となく、ですが」

 自信がなくてそう答えると、悠賀様はふわりと笑った。

「あの時の君に、心を動かされた。君は僕を優しいと言ったけれど、それは、君が僕をそうさせてくれたんだ。今の僕があるのは、君のおかげ」

 身に覚えがない。
 私がしたことは、少年を質問攻めにしたことだけだ。
 なのに。

「再会した君は、別人のように笑わなくなっていた。だから、僕がこの手で幸せにしたいと思ったんだ。あんなに天真爛漫だった君の笑顔を、もう一度見たい、と。そしてそれを作るのは、僕がいいと思った。これは、完全に僕のエゴ」

 少しだけ頬を染めた悠賀様は、何となく幼く見える。

「あの、今から向かうのは――」

「君と僕の、思い出の場所。あの場所で、もう一度君と夕日が見たいんだ」

 悠賀様の優しい笑みに、好きだという気持ちが溢れる。

 私も見たい。
 悠賀様と一緒に、夕日を。

 あれほど怖かった飛行機の中で、心が凪いでいく。
 あれほど嫌いだった夕日を、こんな気持ちで見たいと思えるのが、不思議でならなかった。