気づいた時には飛行機は離陸していた。

「全然大丈夫だったでしょ?」

 悠賀様はそう言って、ケラケラ笑った。
 けれど私の胸は、別の意味でドクドクと高速で鼓動を打つ。

「あ、あの! 好き、というのは――?」

 不躾なことを聞いているのは分かる。
 けれど、頭を整理したかった。

「僕と依恋は、ずっと前に出会っているんだよ。ゴールドコーストで、夕日の沈む海を一緒に見たんだ」

「え……?」

 記憶の彼方を探してみる。
 けれど、私の人生の中に、悠賀様のような人と出会った記憶は――。

「君は覚えていないかもしれない。あの頃の僕は尖っていたからね。まだ15だった」

 それから、悠賀様は私に昔話をしてくれた。

「桜堂ホテルの系列を、ゴールドコーストに建設予定で、父に視察に付き合わされて。その時に、現場から近い海岸に降りたんだ。父が夕日に魅入っているから、僕は足元の岩場でイソギンチャクを突いていた。そうしたら、依恋が急に『Stop it!』って」

 言いながら、私の腕を掴み持ち上げた悠賀様。
 どうやら、当時の私のモノマネらしい。

「岩場に溜まった水の中でしか暮らせない、ちっぽけなイソギンチャクに庶民を重ねて馬鹿にしてた。けれど、そんな彼らにも生きる知恵があるのだと君は教えてくれた。僕が君を庶民だと馬鹿にしても、君はなぜか僕のことを知りたがって――」

 そっと目を閉じてみる。
 幼いころに見た、ゴールドコーストの海辺を思い浮かべた。

「あなた、日本人なの? 私も! 嬉しいな、こんなところで日本語が話せるなんて!」

 そう言ったのは、幼い自分だ。
 目の前にいるのは、ツンとした表情の黒髪のお兄ちゃん。

「私、立花依恋っていうの。お兄ちゃんは?」

「俺のこと知らねーの? 桜堂悠賀っつーんだけど」

「ハルカね! ねえ、ハルカはどこに住んでるの? なんでここに来たの?」

 そんなお兄ちゃんを質問攻めにし、彼の顔が徐々に辟易し始めた頃。

「Ellen!」

 父に呼ばれて、あの歌を――