手を引かれ乗り込んだ桜堂財閥の所有だというプライベートジェットは、まるで一つの部屋のようだ。

 けれど私に、それを堪能する余裕などない。
 広すぎるソファ席に座り、シートベルトを締める。
 それだけで、また身体が震え始めた。
 
 飛行機が全て落ちるわけではない。
 頭では分かっているけれど、気持ちがついて行かない。

 すると、彼はまた私の手をぎゅっと握ってくれる。
 顔を上げれば、いつもの優しい微笑みを向けられる。

 その笑みに、胸がぎゅっと掴まれたように痛くなる。

 これは、彼の善意。
 だから、怖がっていてはダメ。
 私はこれから他の国で、新しい人生を歩むんだ。

 けれど、離れたくない。
 好きだから。好きになってしまったから。
 悠賀様は、どこまでも優しい人。
 私の人生を哀れんで、同情して、だからこうして手を貸してくださっている。

 そんな彼を、困らせたくはない。けれど――。
 
 悠賀様の手を、ぎゅっと握り返した。
 まだ震えている。
 これはもしかしたら、恐怖からではなく、叶わない恋心からかもしれない。

「まだ震えているね」

「申し訳ございません……」

 好きになってしまってごめんなさい。
 手を握ったのは、私の我儘なんです――。

 なのに。

 ――チュッ。

 何が起きたのか。
 頭が真っ白になる。

 けれど、悠賀様は私の目の前で、爽やかな笑みを浮かべていて。

「君が好きだ。ホテルで出会った、ずっとずっと前から」