「な、お前、騙したのか!?」

 叔父様が取り乱し、目の前のテーブルを持っていた扇子でバシンと叩いた。
 その(ふち)に、ピキンとひびが入る。

 思わず身を引くと、悠賀様がこちらに駆けよってきて、座ったままの私の肩を抱き寄せてくれた。

 とても安心する。
 大好きな、温もり。

「立花様はこういう筋書きを作るのが上手ですよね」

 悠賀様は私を抱き寄せたまま、含みのある笑みを叔父様に向けた。

「『数年前から行方不明の令嬢、依恋。実は、彼女に好意を寄せた浅はかな桜堂家の御曹司(わたし)によって、立花家から攫われていた。依恋を桜堂グループで幽閉していたことを知った立花家は、傷ついた依恋をそこから救い出し、傷を癒やすためにすぐに新しい縁談を用意した』……、といった具合ですかね」

「貴様、どこでそれを……っ!」

「おっと、正解でしたか」

「な、くっそ……っ!」

 叔父様が悠賀様に殴りかかろうと手を上げる。
 私は見ていられなくて、目をぎゅっとつぶった。

 けれど、衝撃の音は聞こえない。
 目を開けば、叔父様は黒服の男たちに押さえられていた。

「落ち着きくださいませ、旦那様」

「これが落ち着いていられるか! 私は立花家当主、こんなことをしたらどうなるか――」

「あなたこそ、こんなことをしていいと思ったのですか?」