桜堂ホテル・トウキョウは地下に従業員用通路が広がっている。
そこでは、宿泊されるお客様が快適に過ごせるようにと、昼夜問わず多くの従業員が動き回っている。
無機質な白い壁ばかりの従業員通路。
その奥まった場所に、一か所だけ趣の異なる場所がある。
昼夜を問わず人気が無いその場所は、壁が全面鏡張りになっている。
良く見れば、間接照明の間だけは、両開きの銀色の扉であることが分かる。
ここは、支配人室へ直通のエレベーターだ。
私はおどおどしながらそこへ近づき、間接照明の脇に隠れたインターフォンを押した。
「どちらさまでしょう?」
低い男性の声がする。
「氷室依恋です。悠賀様に呼ばれまして――」
言っている間にも、おかしいくらいに胸をバクバクと嫌な鼓動に占拠される。
口を閉じていないと、心臓が飛び出してしまいそうだ。
「仰せつかっております。どうぞ」
男性の声が止まると、ゆっくりと銀色の扉が左右に開く。
全面鏡張りのエレベーター内に足を踏み入れると、ふかふかな絨毯が靴の裏を包んだ。
すると、身体が全て入ったのを見計らうように、背後で扉がしまった。
ひいっと驚きと振り向けば、その上部の液晶画面に階数が表示される。
エレベーターが、静かに上昇を始めたらしい。
表示が、地下から地上階を示す。
――立花家の人間であることは、どうにかバレないようにしないと。
私は不気味なほど静かに上昇するエレベーターの中で、自身の過去を呪うように振り返った。
そこでは、宿泊されるお客様が快適に過ごせるようにと、昼夜問わず多くの従業員が動き回っている。
無機質な白い壁ばかりの従業員通路。
その奥まった場所に、一か所だけ趣の異なる場所がある。
昼夜を問わず人気が無いその場所は、壁が全面鏡張りになっている。
良く見れば、間接照明の間だけは、両開きの銀色の扉であることが分かる。
ここは、支配人室へ直通のエレベーターだ。
私はおどおどしながらそこへ近づき、間接照明の脇に隠れたインターフォンを押した。
「どちらさまでしょう?」
低い男性の声がする。
「氷室依恋です。悠賀様に呼ばれまして――」
言っている間にも、おかしいくらいに胸をバクバクと嫌な鼓動に占拠される。
口を閉じていないと、心臓が飛び出してしまいそうだ。
「仰せつかっております。どうぞ」
男性の声が止まると、ゆっくりと銀色の扉が左右に開く。
全面鏡張りのエレベーター内に足を踏み入れると、ふかふかな絨毯が靴の裏を包んだ。
すると、身体が全て入ったのを見計らうように、背後で扉がしまった。
ひいっと驚きと振り向けば、その上部の液晶画面に階数が表示される。
エレベーターが、静かに上昇を始めたらしい。
表示が、地下から地上階を示す。
――立花家の人間であることは、どうにかバレないようにしないと。
私は不気味なほど静かに上昇するエレベーターの中で、自身の過去を呪うように振り返った。