お見合いはつつがなく進む。

 お見合いなんていうけれど、実質この人との結婚は確定的だ。
 私は道具に過ぎなくて、つまり立花家に捨てられたようなものだ。

 この人の会社は、私を妻にする代わりに立花財閥の傘下に入る。
 立花財閥は、この人の会社の技術や業績を独占できる。

 家と会社とをつなげる婚姻。私に断るという選択肢はない。
 これは、政略結婚であり、そこに恋愛など存在しない。

 相手はベンチャーIT企業の社長だった。
 まだ若いというけれど、もうすでに40歳。
 庶民の出の苦労人で、企業を立ち上げるまでに時間がかかったという。

 けれど、会話の中身は全て隣に座る叔父様に向けられていた。
 私に対しては冷たく、見下(みくだ)すような視線を投げてくる。

 居心地が悪い。
 けれど私は、この人を生涯の伴侶に選ばなくてはならない。

「立花家の後ろ盾があれば、こちらとしても――」

 まだゴマをする男性を見て、私は顔を伏せた。
 彼はどうせこちらなど、見ていない。

 私の幸せは、終わってしまったんだ。
 父母の死んだ、あの日で。
 
 悠賀様が私にかけた魔法の一夜は、そんな私を(あわ)れんだ神様が、最後に夢を見せてくれただけだろう。
 
 ――悠賀様……。

 今ごろ、彼はどうしているだろうか。
 私がいないと気づいて、捜索をしてくれてはいないだろうか。

 いいえ、と思い直す。

 そんなはずはない。
 私なんかを気にかけるほど、彼は暇じゃない。