恐れていた事が起きてしまった。
 やはり悠賀様(この人)は、私が『立花』であるかどうかを確かめようとしているらしい。

「……『氷室』です」

 爆音で鳴り始めた心臓の音が響かぬよう、努めて冷静に答える。
 頭の中まで覗くような悠賀様の視線に耐えられず、私は視線を落とした。

「過去に苗字が変わったとか、そういうことは――」

「ありません」

 浅くなってしまった呼吸を繰り返しながら、小さな声で答えた。

「そう……」

 悠賀様は息を漏らすように言う。

「君はいつも、そうやってうつむいているの?」

 きっと顔を上げれば、疑いの目を向けられる。
 それが怖くて、顔を上げられない。

「申し訳ございません……」

 震える声で言えば、悠賀様が立ち上がったような気配を感じた。
 視界の端に、悠賀様の磨かれた革靴が目に入る。こちらに近づいていくる。

 ――一体、何をする気……?

 嫌な汗が、背中を伝う。
 飛び出しそうな心臓を抑えようと、胸に手を当てた。

 やがて、彼の靴が私の目の前で止まる。
 私はぎゅっと目をつぶった。