さすがに頭を抱えた。


確かに聞くタイミング絶対今じゃなかった……という後悔がじわじわ広がる。


私はこれまで、何回こいつの前で奏多くんの名前を呼んだだろう。羞恥心で叫びたくなってきた。




「あああもう、私の美しい初恋の思い出が!」


「恋敵を片っ端から痛めつけた美しい思い出でございますか?」


「うるさい! やっぱりあんたは鷹司で十分よ!!」




こいつの予言は基本外れない。

教えたって私はその名前を呼ばないという予言。今回も当たってしまったようだ。


……とりあえず、柳沢奏多くんのことを名前で呼ぶのはもうやめようかしら。馴れ馴れしい呼び方が癖になったまま抜けなかったから。良い機会ね。


はだけたブラウスを整えつつ、そんな決心をした。


それから、教えてもらった名前を空書きしてみる。


哉汰。

ぱっと読み方のわからない字面が、腹の内が読めないこの男らしいといえばらしい。