鷹司は愛用のタブレット端末を使って、画面にその文字を表示させた。


……違う。正直漢字はどうでもいい。問題なのは読みだ。




「か、かな……」




確かにキラキラネームでも何でもない。

むしろ日本人男性の中にそこそこ存在する、割と普通の名前だ。


だけど……私にとってはまた別の意味を持つ名前だった。




「貴女が柳沢様のことを、切なげに『奏多(かなた)くん』と呼ぶたび、わたくしはまるで自分がまい様に想われているかのような、幸せな錯覚を陥ることができました」


「ま、まさかあんたが意地でも私にファーストネームを教えなかった理由って……」


「教えてしまったら柳沢様のことを名前で呼ばなくなっていたでしょう? せっかく自覚のないままわたくしの名前を連呼してくださっていたのに、そんなもったいないことできません」


「馬鹿じゃないの!?」