ただの興味からくる「知りたい」ではなくて、心から彼の名前を「呼びたい」と思った。
ここまできて、鷹司という苗字しか知らないなんて寂しすぎる。
「……」
鷹司は静かに顔を上げた。
その目は今の今までの熱を弱め、少し困ったような色をしている。
「まあ……そろそろ知られるのも時間の問題ですけれど……」
「どうしてそんなに渋るの? 私は別に、貴方がキラキラネームでも気にしないわよ?」
「そうではありませんが。……予言しましょう。ここでわたくしのファーストネームを教えたとしても、まい様は絶対呼びません」
「え、何でよ?」
「わたくしの名前は……」
鷹司はこっそり耳打ちするように顔を近づける。
とうとう、ずっと謎だったこいつのファーストネームが。
私はつい姿勢を正したりしながら、ごくりと唾を飲み込んだ。
「……カナタ、といいます」
「………………え?」
「漢字で書くとこうです。『鷹司哉汰』」