「でもお父様といえば、この前は本当に驚いたわ」




私はようやく玄関に上がり、靴を脱ぎながら呟いた。


──鷹司が私と一緒にお父様の元を訪れたのは、先週ニューヨークから戻ってきてすぐのこと。


お父様は滅多に家に戻らないので、私たちはわざわざアポイントを取って会社の社長室まで行った。

鷹司が突然執事を辞めたことへの謝罪。そして私との仲を正直に伝えるため。


私は、きっと数分で済むような軽い報告になると高を括っていた。

ボワロー社のCEOに気に入られ、血縁関係もないのにこの歳で重要なポジションを与えられた鷹司。

世界中に名を馳せる企業で、今後さらなる出世を約束された男が娘のことを望んでいる。会社の利益を考えれば、お父様が喜ばないはずがなかった。



社長室へ向かう鷹司が、なぜそこまで憂鬱そうな顔をしているのか理解できなかった。