・゚
*.



とあるタワーマンションにある一室の前。



私は胸に手を当てて大きく深呼吸をした。

前髪はおかしくないだろうか。そう思って軽く触れたところで、ドアが開いた。




「お待ちしておりました、まい様」




この部屋の主──ワイシャツに黒のスラックスという、これまでのことを思うとずいぶんとラフな格好をした鷹司が、私に向かって恭しく一礼した。




「迷われませんでしたか? 時間を教えて頂ければお出迎えいたしましたのに」


「マンションの目の前まで車で送ってもらったのだから迷う要素がないでしょう」


「エレベーターの乗り方がわからず途方に暮れてらっしゃる可能性もあるかと」


「そこまで箱入りじゃないわよ!」




突然消えた鷹司を追いかけてニューヨークへ行ったあの日から、およそ二ヶ月。


CEOからの引き継ぎが無事に終わり、ボワロー社の子会社を本格的に始動させるため、鷹司は先週日本に戻ってきた。


そして現在は一等地にあるこの高級タワーマンションの一室に拠点を置いている。元執事のくせに生意気だ。