鷹司は当時、執事の仕事を辞めるなんてことを露ほども考えていなかったのと、あまりに若かったため、その話を蹴った。


だけど三か月ほど前。まだその話が生きている、これが最後のチャンスだ、とCEOから連絡が入った。

そして──もしその話を受けるのであれば、この日までに自分の元へ来るように……と設定された期限が、今から約二週間前。

日本からの移動時間を考慮すると、鷹司がうちから姿を消したあの日がリミットだった。




「あんた……なんか本当こう……すごい人だったのね」


「恐れ入ります」


「ん? でも待ちなさい。それならそうと連絡の一つでも入れてくれたら良かったんじゃないの? あんな雑なメモ一つで済ますなんて」


「それが……あまりに急いで荷造りをしたため、まい様の連絡先が入った仕事用のスマートフォンをうっかり岸井家のお屋敷に置いてきてしまいまして」


「はあ!?」


「こちらにいるのは引き継ぎのためで、滞在期間は二カ月から三カ月程度の予定でしたので、戻ってから残りの荷物はまとめて引き取らせて頂こうと思っていたのですが……」