……これにはさすがに笑いを堪えきれなかった。このお嬢様、思っていたのとだいぶイメージが違う。


その後も数日観察を続けて、確信した。


岸井まいは、彼女の父親が評価するような、どうにもならない素行不良の令嬢ではない。

自分を悪女のように見せることで居場所を作ろうとするただの不器用な少女だ。


こんなところからこそこそ眺めるのではなく、早くもっと近づきたい。


そんな気持ちを抑えきれず、契約の初日は彼女が屋敷に帰ってくるのを待たずに学校まで出迎えに行ってしまった。



『どうやらわたくし、貴女に一目惚れしてしまったようなのですが……どうすればよいでしょう?』




突然現れた専属執事に不信感でいっぱいだった彼女にこう言ったのは、もともと計画していた「心を開かせる作戦」の一環だった。

だが言ってみてから、その言葉は案外それは本心なのかもしれないと思うぐらい、すとんと心に馴染んだ。

ああそうか。俺は、今日まで言葉を交わしたことすらなかったこのお嬢様に惚れているのか。