この手のお嬢様に心を開かせるには、まずは甘やかしてやるのがいい。

父親の様子からも何となく察せられたが、岸井まいはあまり人から愛されることに慣れていないタイプだ。何か適当に愛をささやけば気を許すだろう。


そんな風に分析しながら観察を続けた。

彼女は相変わらず楽しそうに取り巻きと高笑いしている。


……その様子が変わったのは、その取り巻きたちが順に帰っていき、教室に一人残った後だった。

岸井まいは、一人になった教室からなかなか出ていこうとしない。

いったい何をしているのかと思えば、彼女は何やら必死に手鏡を睨みつけていた。

もう放課後なのに今更そうも身だしなみが気になるのかと半分呆れながら見ていたが、そのうちどうやらそうではないらしいことに気づいた。



『なんかちょっと違う気がするわね……』



ぶつぶつと呟く彼女は、一人で一生懸命「悪女っぽい笑顔」の練習をしていた。