ほんのわずかな短い期間でのみ契約を結び、様々な主の元を渡り歩く。

兄のようにはならないために。仕えてやってもいいが、あくまでこの契約における主導権はこちら。

執事に似つかわしくない兄の形見のピアスを絶対に外さないのも、その意思の表れだった。


奇妙なもので、ゆとりのある人間というのは、そういう型にはまらない者を好むらしい。

しかし、面白半分で俺を雇った人間は、多くが最後にこう言う。


頼むからこれからも自分のもとにいてくれ、見捨てないでくれ、と。



もちろん、その言葉を引き出すために相応の努力もしてきた。

執事としての雑務をこなす一方で、様々な悩みを抱えた主に対し、彼ら自身では閃かないような適切な助言をいくつも与えていった。それにより、彼らを執事である自分に依存させる。

権力者たちを“たかが使用人”である自分に泣きつかせることが、何よりの復讐だった。