兄さん。

心の中で静かに呼びかけた。

あんたが人生を捧げようとしていたのは、こんな救いようのない人間だったよ。



──その日家に帰った俺は、三年前にもらって以来しまい込んでいた銀のフープピアスを取り出した。

そしてそれを強く握りしめ、両親に言った。兄が通っていた執事学校に自分も行かせてくれないか、と。



兄を殺した人間に、それからそんな環境を許す異常な世界の奴らに復讐する。そのために。




どのようなことでも器用にこなすことができて、感情は希薄だが取り繕うことが得意。自分がどんな人間なのかを簡潔に説明しろと言われたらそう答える。

学校に通い始めると、そんな性格が執事という仕事にずいぶん向いているらしいことを知った。


創立以来の天才と呼ばれ、たった一年で、史上最年少の卒業生となった。

そんな話題性抜群の若者は、当然世界中の富豪たちから引く手あまた。


だが俺は、兄のように一人の特別な主をその中から定めたりはしなかった。