理解できる感覚ではなかったが、兄の選んだことに子どもの自分が特に反対する理由もなかった。

自分とは違い、朗らかで誰にでも愛される性格の兄のことだから、どのような環境でも当然上手くやっていける。そう信じて疑わなかった。


その兄が過労死したのは、それからたった三年後のことだった。


兄が仕えた主は、兄のことを“執事”という名の下、過酷な環境で昼も夜も休みなく、まるでからくり人形か何かのように働かせ続けたらしい。人伝に聞いたその労働環境は、とても人間にさせるものとは思えなかった。


葬式に参列していた兄の主を見つけ近づいたのは、遺族に対してせめてもの謝罪の言葉を聞けたら、と思ったからだった。

だが声をかける前に、そいつが不遜な態度で部下に愚痴をこぼしているのが聞こえた。



『ったくあの男。体の丈夫さに定評があると言うからそれを信じて雇ったっていうのに。代わりを見つけるのがどれだけ面倒だと思っている。たかが使用人が手間かけさせやがって』