side鷹司

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『このピアス、お前にやるよ。仕事始めたら付けてられないからさ』




年の離れた兄がそう言って、愛用していた銀のフープピアスをくれたのは、俺がまだ中学生になったばかりの頃だった。


ホテルを経営していた両親の影響を強く受けた兄は、昔からホテルマンを目指していた。その兄が高校を出た後ホテルマンとして必要な一流のサービスを学ぶため入学したのは、何故かオランダにある執事学校だった。

ホテルマンとしての技術が学べる専門学校は国内にだっていくらでもあるのに、わざわざ外国の、しかも執事の学校を選んだ兄は、当時の俺の目にもずいぶん奇妙に映った。とことん「一流」を求めたかったそうだ。

それでもまさか、そのままホテルマンではなく執事になる道を選ぶとまでは、想像していなかった。




『どうしてもオレを雇いたいって言ってくれる人がいたんだよ。ホテルマンとして不特定多数の人に仕えるのも良いけど、一生この人だけっていう特別な人に仕えるのって、すごい幸せそうじゃん?』