「か、風邪がうつるでしょ、そんなことしたら! まだ熱も下がりきってないし」


「……何ですか、まさかこの状況で寸止めだとでも?」


「専属執事に体調崩されて困るのは私なの! 今さらかもしれないけど!」




肩をぐっと押し返して、どうにか距離をとる。

鷹司はいつものうさんくさい笑みのまま小さく舌打ちして、私から手を離した。



……え、今こいつ舌打ちした??




「まあ確かに、お嬢様のおっしゃることも一理ありますね」


「そうでしょ。……って、え、なに、今度は何っ!?」




引き下がるかに思えた鷹司だったけれど、舌の根も乾かぬ内にまた顔を近づけてくる。

反射的に目を閉じた瞬間、首筋の辺りにぴりりと痛みが走った。




「お嬢様の優しい優しいお心遣いに免じて、本日はこれだけで我慢しておきましょう。……ですが残念。こんな痕を付けていては、風邪が治ったところでしばらく人前には出られませんね」


「は? 痕……? って、まさか!」