奏多くんに恋をしていたときの、ふわふわとした幸せな気持ちとは程遠い。

そんなものよりもっともっと、強くて醜い欲望。

……でも、それだって決して嫌な気分ではない。




「本気……ですか?」


「こんな趣味の悪い嘘つかないわよ」




呆気に取られる鷹司。

そのまましばらく経って、彼はやがて脱力したように笑った。




「……お嬢様は本当に、いつも想像の斜め上をいきますね。胸ぐらを掴んで告白する良家のご令嬢なんて、聞いたことがありません」


「褒め言葉として受け取っておくわ」


「もちろん褒め言葉ですよ。それでこそ、初めて俺が、本気で好きになったお方」


「っ……」




無意識に呼吸を止めた。

気がつけば、熱を帯びた瞳がまっすぐ私を捉えている。


思わず力を弱めてしまったその隙を見逃さず、鷹司は私の腕を振りほどく。

そして、両手でそっと私の頬を包み込んだ。




「待っ……ちょ、え、ストップ!」




ゆっくり近づけられる端正な顔に、何をしようとしているのか察して慌てる。

顔が熱い。体調のせいでないことはわかっているけど、ちょうどいいので言い訳に使わせてもらう。