御園さんは困ったような笑みを浮かべた。




「大事なことだから、当然社長は話を通してくれているものだと思っていたんだけど……」


「……お父様が?」




手近な壁を思い切り蹴りたい衝動に駆られた。


なるほどそうか、読めた。

娘のことを金のかかる所有物程度にしか考えていないあの男。娘の結婚相手を本人の同意なしに決めてしまうことも……正直やりかねない。

しかもどういう伝手だかはわからないけれど、岸井家よりはるかに歴史も力もある御園家の若き当主が相手。ほくそ笑む顔が目に浮かぶ。




「雄一様。言葉は正確にお願いします」




頭が真っ白になるほどの戸惑いと、ぶつけどころのない怒りでうつむいていた私の前に、すっと割り込む男があった。

無事葉澄に髪飾りを送り届けて戻ってきた鷹司だ。




「雄一様はあくまでお嬢様の婚約者候補でございます。旦那様からは、まだ確定ではないためお嬢様には伝えていないのだと聞いておりますよ」