葉澄は本当に原麗華に声を掛けることができたらしい。表情が緩んでいるのが遠目でもわかる。

一般人の葉澄が芸能人に話しかけにいったって、適当にあしらわれて終わりだろうと思っていたけれど、どうやら意外に話が弾んでいそうだ。彼女の人懐っこい性格や、柔らかな雰囲気が成せる技だろう。


思いがけず話し相手を失った私は、今鷹司に髪飾りを届けに行かせずとも、後から自分で渡せばよかったと少し後悔した。

仕方ないので飲み物でももらおうかとウエイターを探す。


そんなとき、私に声を掛けてくる人がいた。




「岸井まいさん、ですよね」


「え?」




高級ブランドのスーツを着た、人の好さそうな眼鏡の男。歳は鷹司と同じか一つ二つ上ぐらいだろう。

見た覚えがあると思ったら、つい先ほどまで原麗華と話していた男だ。




「初めまして。貴方は?」


御園(みその)雄一(ゆういち)といいます。驚かせてしまってすみません」


「こちらこそ、連れが話し相手を奪ってしまったみたいで申し訳ないわ」


「いえいえ。原さんはうちの会社のCMでたびたびお世話になっていて、その関係でお話させてもらっていただけですから」