「ちなみに恋人ではございませんよ。今のわたくしはお嬢様一筋ですので、どうかご安心ください」




鷹司は私の頭の中を読んだように言った。

いつも通りの胡散臭い笑顔で、先ほどの切なげな表情はすっかり消えている。




「誰もそんな心配してないわよっ!」


「兄ですよ。兄から譲り受けたものです」


「兄?」




そういえば前に聞いたわね。顔も性格もあまり似ていない兄がいるのだと。


私の知っている、この執事についての数少ない情報の一つ。


だけど次の彼の言葉で、その情報も正確ではなかったのだと知った。




「はい。このピアスは亡くなった兄の形見でございます」


「え? ……亡くなっていたの?」


「わたくしが今のお嬢様よりもう少しだけ年下の頃の話ですよ。かつて兄も、わたくしと同じように執事として働いておりました」




鷹司は静かに目を伏せる。

私は息を飲んで次の言葉を待つ。

──が。