「おいっ! 誰の許可を得て、コイツに触ってんだよっ!」


頭上から聞こえたドスの利いた声に、ふたりの男子生徒の顔がどんどん青ざめていく。

顔を上げると、そこには鬼の形相(ぎょうそう)をした野獣様がいた。

息を切らしながら、肩を大きく揺らす野獣様。

おそらく走ってきてくれたのだろう。

汗に混じった甘ったるい匂いにクラクラする。


「み、雅様……」

「これは、その……」


ふたりの男子学生は野獣様に怖気(おじけ)づいて、言葉を失っている。


「コイツは、お前らみたいなβ(ベータ)が簡単に触れていいような女じゃねぇんだよ」


野獣様の腕が、ふたりから私を守るようにギュッと強くなった。


「家ごと消されたくなかったら、二度とコイツに手を出すな。他の奴らにも伝えておけ」


野獣様が一喝(いっかつ)すると――。


「は、はいっ!」

「ど、どうもすみませんでしたっ!」


――ふたりの男子学生は、一目散にこの場を去っていった。


だけど、野獣様とふたりきりになるのも、私にとってピンチなことに変わりない。