「それじゃ……大牙くんは、私のフェロモンでラットは誘発されないってこと?」
「そういうことになるね――」
大牙くんは私の質問に答えると、続けて話す。
「――厳密に言うと、Ωのフェロモンの匂いはわかる。俺が昨日バラ園に来たのは、仁愛ちゃんのフェロモンを感じ取ったからだしね。でも、仁愛ちゃんのフェロモンで俺のラットが誘発されることはなかった。それはつまり、俺は仁愛ちゃんの運命の番じゃないってことなんだよ」
そんな……。
じゃあ、野獣様が言ってたことは――。
「仁愛、昨日お前も感じたはずだ――俺のαのフェロモンを。そして、思ったはずだ――俺が欲しいと」
私に向ける野獣様のまっすぐな目を反らせずにいると、野獣様にあごをクイッと持ちあげられた。
「――仁愛、お前は“俺の運命の番”なんだよ」
その言葉にひどく動揺して、言葉を失う。
「とはいえ、この学園にまだ番の契約を結んでいないΩがいるって知られたら大騒ぎになる。だから、今日からお前はαに擬態してもらう」
「ちょ、ちょっと待って! 私がα!? ムリよっ! だって、さっき私が一般人だってこと、多くの人たちにバレちゃったんだから」
「それは、『βから突然変異した』ということにしておけば問題ない」
「それって、ありうるの?」
「先例は極めて少ないが、ないことはない。これから全校集会でお前を俺たちと同じαとして認知させるからな」
どうしよう……。
よりにもよって、野獣様につかまってしまうなんて。
しかも、これからαとして過ごさなくちゃいけない――。