「仁愛、お前が今まで地味な女を装ってた理由はなんだ?」
「読書の時間を邪魔されないようにするためよ。毎日のように、ひっきりなしで声をかけられていたから」
私がこの世でいちばん我慢ならないことは、読書の邪魔をされることだ。
保育所では、同い年の子たちや先生から遊びに誘われても、断るだけでよかったのに。
小学校、中学校と上がっていくにつれて、なぜか全く面識のない男子から待ち伏せされて告白されるということが増えていく日々。
そのせいで読書の時間が奪われて、耐えられなくなった私は、中学生のある時期から地味子に扮するようになった。
結果的に、“白居仁愛は本と友だちの変わり者”として、周りから認知されるようになり、だれひとりとして私に近寄る人はいなくなったんだ。
「やっぱりそうか――」
野獣様の反応からして、どうして私が地味子になっていたのか、だいたい予想がついていたらしい。
「――仁愛がそういう状態になっていたのは、Ωのフェロモンが原因だ。Ωのフェロモンは、αだけじゃなく、βも無自覚に誘ってしまうからな」
ずっと引っかかっていた。
ただ本を読んでいるだけなのに、どうして人が寄ってくるのか。
それが、Ωのフェロモンのせいだって言うの?