しばらくして、野獣様と大我くんが美容室に戻ってきた。

私を見るなり、野獣様は何も言わずにじっと私を見ていて、大牙くんは「ヒューッ!」と口笛を鳴らす。


「どこのイケてるお姉様かと思ったら……さっきとはまるで別人だね! お肌も髪も思わず触りたくなるほどきれいだし――」


そう言って、大牙くんが私に手を伸ばした――そのとき。
それを阻止(そし)するかのように、野獣様は私を抱き寄せた。


「――だから、仁愛に触れんなって言ってんだろ」


野獣様から香る甘いにおいに、心臓がドキッと音を立てる。


「チェッ! いいじゃん、ちょっとくらい」

「あぁ、そうか。そんなに女に困ってるなら、今度お前のおじさんとおばさんに会ったときに、お見合いの話をしておいてやるよ」

「お、おいっ! それだけは勘弁してくれっ!」


野獣様と大牙くんの会話で我に返る。


「……って、言っておくけど、私はあんたにも触れられたいなんて一度も思ったことないから! わかったら離してっ!」


だけど、野獣様は私を離そうとしない。


「お前にそう言われても、簡単に手放せるかよ。ずっと探し続けて、やっとの思いで見つけた……俺の“運命の番”なんだから」


何の疑いもない真っ直ぐな目で私を見つめる野獣様。


この学園の図書館にあった文献や書物でたまたま知った“第二の性”。

それは、自分の得た知識として(とど)めておくのがきっといい。

そう頭ではわかっているけれど、知りたいという欲を(おさ)えることができなかった。