「ちょっと! 降ろしてよっ!」

「ヤダ。降ろしたら、絶対に俺から逃げるだろ?」

「当然よっ!」


全力疾走で逃げてやるんだからっ!


「それなら、なおさら離さねぇよ」


私が必死で抵抗しても、野獣様は私を解放する気はないらしい。

本当は頼みたくないけど……。


「大牙くん、助けて……」


私たちのうしろにいた大牙くんに、助けを求める。

すると、大牙くんの顔が急に(こわ)()った。


「えっと……こればかりは、おとなしく豹の言うことを聞いておいた方がいいかも。ごめんね、ははっ……」

「そんなぁ……」


野獣様が大牙くんを(にら)みつけていた――ということはつゆ知らず、落胆する私。


「まぁ、たとえお前が俺から逃げたとしても絶対に逃がさないけどな」

「はぁ!? どうしてそこまでするのよ」

「昨日、言っただろ? お前は俺の“運命の番”だって」


――“運命の番”


その言葉に、身の毛がよだつほどゾッとした。

昨日、野獣様が口にしていたのは聞き間違いではなかったらしい。


やっぱり、野獣様の第二の性は――。


でも、それならなおさらこの男は知っているはずだ。

β(ベータ)”の私では、運命の番になれないことを。


それなのに、どうしてここまで私に執着(しゅうちゃく)するのか――このときの私はまったく理解できなかった。