「な、何言ってんのよっ! 私、あんたのものになった覚えはまったくないですけどっ!」
とっさに野獣様の体を押しのけたれど、すぐに片手を取られて引き寄せられる。
「昨日、あれだけ俺のフェロモンを感じておきながら、よくそんなことが言えるな」
耳元で囁く野獣様。
なかったことにしておきたかった記憶を思い起こされて、全身がブワッと熱くなる。
「うそっ……大牙様だけでなく、豹様まで……」
「どうしてお二方とも、“あんなド庶民”を気にかけるのかしら?」
さっきから“ド庶民”、“ド庶民”って……。
お金持ちは、人を見下さないと生きていけないのだろうか。
そんなことを思っていると、急に野獣様が机をバンッと勢いよく叩いた。
「お前ら、さっきからうるせぇんだよっ!」
野獣様の一声で、シーンと静まりかえる教室。
「仁愛が“ただのド庶民”なわけねぇだろうが」
なによ……。
あんただって、散々私のことを“ド庶民”扱いしてたくせに。
まるで私を庇うような言い方をするなんて、どういう風の吹き回しなのだろうか。