視認できないほど小さくなっていくのを見届けてから、窓を閉める。
壊れていた窓の鍵がみるみるうちに、元通り。
オオクニヌシの自動修復の効果は、普段は便利でいいが、泥棒の証拠も消されるのが厄介だ。
疲れて帰ってきて、知り合いの犯行現場を目撃したのだ。
犯人はわかっているので、片付けは後回し。
引き出しなどが荒らされた跡の残るリビングで、私たちは定位置に座る。
「あいつら何しにきたんだ?」
口火を切ったのは、先輩だった。
答えたのは、最初に彼らを発見した雷地と常磐。
「さあ? 見てわかる通り、片っ端から引き出し開けて、何か探してたようだけど」
「泥棒の目的なら、金目のものと相場が決まっている」
「いやいや、陽橘が金を盗みに入るって常磐は本気で思ってる?」
「あの女に貢いで金がなくなったのだろう」
「かもかもー。あの女が着てた服、ボクの狙ってた超高級ブランドのものだったしー」
「………服なんて、着られればいいのに」
「じゃあ、これから響はボクの用意した服だけ着てね」
「嫌」
響の服は、いつの間にか白衣とジャージに変わっていた。
「拒否早くないー?」
そういえば、咲耶はよく知らない人にブランド物をプレゼントされてたな。
と、ふと思い出した。
「貢ぐ相手同伴して来ねえだろ」
あり得るかもと頷く私とは反対に、弟への不名誉な言いがかりに先輩が意見した。
「いやいやわかんないよぉ? 今の陽橘は正気じゃないっていうかぁ」
「ボクを差し置いてあんな女に騙されるなんてひどくないー?」
「………誰も柚珠には騙されない」
「お前の妹、実は淫魔か?」
「知りませんよ」
「姉はこんななのに」
「先輩、何が言いたいんですか?」
クソイケメンが、貶してくれおる。
弟を貶された腹いせですか。
騙されたのはそっちでしょうに、私に当たらないでいただきたい。
「コノハナサクヤヒメは絶世の美女。かぐや姫を気取っても不思議ではない」
「あははっ。スサノオはおもしろいことを言うねぇ。地上の神ごときが月の領域を語るのかい?」
「我に言うな」
ツクヨミノミコトの目が笑っていない。
スサノオノミコトはため息をついた。
うーんと唸っていた雷地が口を開く。
「だよねぇ。まさか本当に家を燃やしにきたわけじゃないだろうし」
「家はすぐに直る」
だから痛手ではないと、きっぱりと言い放った常磐。
誰のせいで、と私は原因である彼らを半目で睨む。
「………普通は、お金がないと家が建てられない」
響の言に、よくぞ言ってくれたと、私はこくこくと大きく頷いた。
すぐに直る家はオオクニヌシさんのおかげなのだ。
というか、壊れない家を作ろうとしてくれてたんだから。
それを上回る破壊工作をしてくれるきみたちが悪い。
直るからと言って、積極的に破壊してもいいわけじゃない。
「今のボクたちは収入ゼロだもんね。この服高いのにあのクソジジイ……」
柚珠は、ロリータ服をボロボロにしたおじさんへの怒りを再燃させる。
「家から持ってきたお金にも、限りがあるしねぇ」
「俺たちを金銭的に追い詰めるのが目的ってんなら、わからないでもない」
「だが、今度の試験に受かれば仕事ができるようになる。あと2ヶ月の辛抱だ」
全員が結論に達し、考えを放棄したところで、私は挙手し話題を変えた。
「その、試験で聞きたいんですけど。申し込みは鳥になって飛んでいきましたけど、受験票も、鳥になって飛んでくるんでしょうか?」
「…………」
ここにいる皆が顔を見合わせて、無言になる。
バカな質問をした私を嘲笑っているんですね、わかりますよ。
そんな空気出てますもの。
でもさ、気になったんだからしょうがないじゃん。
今日のところは、とりあえずの目的。
ツクヨミノミコトとスサノオノミコトの媒介を見つけることができて、これからまた修行ってところなのだ。
迫る日程に恐怖するってものですよ。
気分はさながら受験生。
他人の言葉は信用ならん。
現物の日付を見て、自身の進捗と一喜一憂喜怒哀楽するのです。
「……………」
あまりに静まった空間に、謝罪の言葉が出そうになった瞬間。
彼らは、同時に叫んだ。