その尋常でない様子に湯船から飛び出す柚珠を私と響が追う。
「ふっ」
スサノオノミコトの吐息ひとつで、私と響と柚珠の濡れた髪や服が乾いた。
そのまま脱衣所に飛び出して、廊下へ。
一本道のそれを駆けて、すぐに見えた3人の背中。
先に到着していた先輩の後ろから、覗き込む。
常磐の背中の先、雷地は右腕を伸ばし、その指先はバチバチと電気を纏っている。
その正面には、太い木の根っこのようなものが絡まり合うように球を作り、その一部、雷をぶつけたのだろう焦げ跡からは細く煙が上がっていた。
「キャーッ、こわかったあ!」
「大丈夫だよ咲耶。まったく、顔を見た途端に攻撃って、酷い奴らだね」
わざとらしい悲鳴と、生意気そうな声のあと、球状の木の根っこが燃え上がる。
私は先輩の後ろに隠れた。
「ひぃっ!」
「大丈夫」
「安心しなよ、こっちには来ない」
近くに浮かぶスサノオノミコトとツクヨミノミコトに言われて、背を向けて逃げ出したいのを止まる。
ひとりで逃げ出すより、彼らの傍が安全だ。
雷地の正面に数本のナイフが浮かび、電気を帯びて発光する。
そのまま炎の奥の人物に狙いを定めた。
「自分の生活空間に他人がいると、迎撃するよねぇ。不法侵入者くん」
発射されるナイフ。
火の粉が花びらのように幻想的に散り、ナイフを吹き飛ばした。
「チッ!」
「不法侵入はお前たちの方だよ」
現れたのは、ニヒルに笑う火宮陽橘と、彼に腕を絡ませる天原咲耶。
刀に手をかけた先輩が、次弾発射準備する雷地の隣に並ぶ。
「何しに来やがった」
「人の家を勝手に改造して、他の五家の勘当された元次期当主を集めて、トップ気取り? 無能な兄のくせに随分いい暮らしをしてるみたいじゃないか」
「それはもう、終わった話だろう。ここは俺とこいつの家だ。いくら弟とはいえ、プライベートに口出しすんなよ」
「元は咲耶の家だよ」
「アタシのだもん」
咲耶は愛らしく頬を膨らませる。
彼女のお願いならなんでも聞いてしまいそうになる圧倒的美少女フェイス。
しかし、ここにいる同盟者達は騙されない。
「天原家だろう、つまりこいつ、月海のものでもある」
「汚い手を使って咲耶の家を奪ったんだろ。それをさも、初めから自分のものだったように言えるね」
「本家から追い出す代わりに、この家の所有権を俺とこいつに譲るつって。火宮家で決まったはずだが」
「その火宮家はじきに僕が継ぐんだよ。いずれ僕のものになるんだから、今明け渡すのも同じことだよね」
「そんな暴論が通ると思ってんのか?」
「正論だって。そんなにこの家に住みたいの?」
「…………そうだ、と言ったら?」
ニヤリと口角を上げ見下すように顎を上げた、同じ表情の兄弟は、一瞬視線を交わして挑発する。
「無能な兄が住んでいた中古に住むのも嫌だし、こんな家、燃やせばいっか」
陽橘が掌に浮かべた火が渦を巻き、大きくなり出した瞬間。
「………消火」
響は、ここまであわ立て続けた水の玉を陽橘にぶつけた。
「キャアーッ!」
「なん、コッ………ブクブクブクブク!」
泡の玉は陽橘と咲耶を閉じ込めたまま、シャボン玉のように球の中で渦を巻きながら空いた窓から外へ旅立って行った。
それを追うように私たちは窓から外を見る。
シャボン玉は屋根より高く飛んで、火宮家の方角に流されていく。
私は両手を合わせてそれを見送った。