「あんた何者? 五家を恨む割には、桜陰や、響を知らなかったようだしー?」



「………我らはタカマガハラ会。六家より追放された天原の下に集う者なり」



天原、の名前にここにいる全員が反応を示した。

それを気にすることなく、おじさんは話を続ける。



「目的は、天原家の再興と五家の破滅。勘当されるような弱者に興味もなければ、女装趣味にも興味はない」



遠くで響が、女装趣味じゃないと文句をつけていたが、無視された。


六家から一家減って五家になった。

であるならば。



「六家から天原が抜けて、今の五家になったということか」



火宮、神水流、金光院、浄土寺、桃木野の五家に天原を加えた六家が元の姿。



「そうだ。一人いれば、戦況が変わるとまで言わしめた、天原の召喚術。いずれその刃が向けられることを恐れた奴らは共謀し、天原を闇討ちした。その歴史を塗り潰し、五家を名乗り権力を振るう、奴らが許せぬ」



おじさんの弁には熱がこもっていた。



「天原の生き残りは、五家に追手を差し向けられ、人里離れたところで身を隠し、復讐の機会を待った。駆け落ちして里を出た者もいたが、その子孫のひとりが天原咲耶だ」



天原に、そんな過去があったなんて知らなかった。

普通の会社員をやっている父も母も何も言っていなかったし、なんなら火宮の家にお世話になる時、喜んですらいた。

追放された過去を知らなかったのかもしれないし、知ってても過去の事と気に留めていなかったか。

先輩たち、元次期当主の彼らはにとっても初耳なのだろう。

驚いた様子でおじさんの話を聞いている。


私も、ここに居合わせなければ知ることはなかったはずだ。



「我らが主張の正しさがわかるだろう。生まれ変わりというならなおのこと再興の旗印としてもちょうど良い。さあ、天原の子孫を渡してもらおう」



力説したおじさんだったが、格好がなぁ。



「この状態で、よくそんな事言えるねぇー」



「敵の戦力強化に繋がると知って、はいそうですかと渡せるかよ」



「同じく」



悪人顔、プリン頭、筋骨隆々に見下ろされて、不良に集られる成金おじさんなんだよなぁ。



「あの、質問なんですが。本当に、天原咲耶がその天原家の子孫なんでしょうか」



「どういうことだ?」



片手を上げる私の問いに、先輩が先を促す。



「天原という苗字は他にもいるでしょうし、咲耶が突然変異でたまたま、六家とは関係のない天原家に産まれた可能性もありますよね?」



駆け落ち組が天原姓を隠していなかったのかという疑問も残るし、私の両親は本当に何も知らなさそうだった。

問いに答えたのは、おじさんだった。



「天原は、その霊力の高さから生まれ変わりが産まれやすい血筋だ。我らが当主様も仰っていたし、間違いない」



「憑依しながら大量の人形を操った膨大な霊力は、お前が天原の血筋だからだな」



先輩の追及に、おじさんはフッと笑った。



「おまけはもう終わりだ。お前達は我に勝ったのかもしれない。だが、我も負けてはいない」



「まだいたのか!」



五月人形の生き残りが、包丁サイズの大太刀でおじさんの指輪にはまるクリスタルを破壊すると、おじさんは魂が抜けたように白目を剥き、倒れた。



「チッ。逃げられた」



先輩は、術者の消えて動かなくなった五月人形を蹴り飛ばす。

それは向こう側の壁に激突し、壊れた。