「響、止めろ」



「………やだよ、めんどくさい」



常磐が響に助けを求めても、一蹴された。

しかしおじさんは、バカスコボコボコにされ、顔の形が歪み、呼吸も浅く視線が定まらなくなってきた頃。



「……………はぁ」



響は彼らに向かって歩き出す。



「………退いて」



踏み続ける柚珠は引かない。

男の娘でありながらも決して非力ではない柚珠の蹴りによって、折れた歯が転がっている。


いや違う、あれは入れ歯だ。

歯茎ごと吹き飛ぶなんて、なんてスプラッタ。



「邪魔しないで」



「…………はぁ」



退く気のない柚珠の足の下。

おじさんの口めがけて、響は懐から出した試験管の中身をこぼす。

おじさんの腫れ上がった顔は、少しの光を帯びた後、元に戻った。



「響ちゃん……?」



「た……助かっ………」



「………どうぞ」



邪魔に入った響を睨みつける柚珠。

邪魔に入った響を救いの目で見るおじさん。

そんなおじさんを柚珠に即売りつける響。



「おまっ!? 助けに来たんじゃないのかブゴッ!」



再び柚珠による蹴りが始まった。



「………死んだら困るから」



響は回復薬入り試験管を複数本、両手に構えて見せた。



「………僕も怒ってるんだ。大丈夫。何度でも治す」



青褪めるおじさんの脳天に、柚珠のかかと落としが決まった。



「ゴフッ!」



「………はい」



「ブルバアッ!」



「………はい」



「ゴボブグッ!」



「………はい」



柚珠と響の共同作業。

遠慮をなくした柚珠の重い一撃と、全てを癒す響の回復薬。

餅つきのようにテンポよく、大怪我と回復を繰り返す。

拷問とはいえない、リズムゲームを思わせるそれに楽しくなりつつあった頃。



「まて、待ってくれ! 響ちゃん! この凶暴女装男を止めろ! 可愛い君の言う事なら聞くだろう!」



「…………は?」



苦し紛れのおじさんの一言で、響の周りの空気が一瞬で氷点下になる。

逆に、柚珠の機嫌が随分よくなった。



「キミ、話がわかるねっ」



振り上げた足が、ゆっくりと床につく。

おじさんの目が希望を見出したように輝いた。



「でねっ、そんな響とボクのデートを邪魔したんだ。ボクの言いたい事、わかるよね?」



しかし柚珠は一瞬で悪い顔になる。



「……っ、桃木野柚珠! 彼女にこんな姿見せていいのか!」



「彼女? 誰のことかなぁ? 響ちゃんはぁ彼女じゃないもんねっ」



「隠しているのだろうが、見ればわかる! 桃木野の従者とは仮の姿で、実は恋人だろう!」



「………違う」



「否定せずともよい! こちら側につけ! 我々は全て受け入れよう!」



だから我を助けろと、おじさんの目が言っていた。



「アンタが受け入れなくて結構。響ちゃんはボクの従者でも恋人でもなくて、神水流だもんっ!」



怒れる柚珠の蹴り上げたおじさんの頭が回転し、数メートル先まで転がる。