「嘘っ………!」



思わず悲鳴があがる。


頭を潰されて生きているはずがない。

決して他人ではない、身近な人の最期が、こんな………。


見殺しにした罪悪感が腹の奥を重くする。



「………」



肩に乗るツクヨミノミコトがそっと頭を撫でてくれる。

私を慰めたいのなら、生き返らせなさいよ。


睨みつけるようにツクヨミノミコトの方を見ると、その向こうに立つ黒い影。



「ひいぃぃぃぃっ!」



驚いて、幽霊を見たように叫びを上げ、逆隣の先輩にしがみついてしまった。



「…………殺したのはおじさんを操ってる人だ。そこのおじさんでもなければ、薄情な同盟者でもない」



その影は、ゆらりとこちらに歩み寄る。

目を逸らさず、先輩を盾にできるよう移動した。



「おい」



「………死んでないけど」



よく見るとそれは、ゴシックロリータな眼帯美少女響君で。



「………え!?」



おじさんの足元には、頭が潰れたゴスロリ服の響君。

私の目の前にも、ゴスロリ服の響君。

おじさんの足元と、目の前の彼を交互に見る。



「んんん?」



どうなってるの?



「響得意の幻覚だよ」



響の隣には、ロリータ柚珠が誇らしそうにしていた。

そのパステルカラーだった服は、ところどころ汚れたり破けたりして、元の色を失っている。

マネキンに囚われている方の柚珠を見ると、顔も無ければ髪型、服さえも安っぽい。



「いつの間に!」



おじさんの操る二体のマネキンに両腕を掴まれている、ただのマネキン。

それに気づいたおじさんは柚珠を睨みつける。



「初めからアンタはマネキンを人質にしてたってワケ。こんなに可愛いボクと響をマネキンと見間違うなんて、失礼なおじさんだよっ」



「桃木野の変態が、やってくれる」



「おじさんって、ほんっと失礼」



柚珠がおじさんに両手を向ける。



「ニセモノとはいえ、響の頭を踏み潰してくれた借りもあるしぃー」



柚珠の霊力が膨れ上がり、彼のスカートが浮く。

おじさんの足元に転がっていた観葉植物が枝葉を伸ばし、おじさんを一瞬で簀巻きにした。



「さあっ! キリキリ吐いてもらうんだからねっ」



カツカツと靴音をたてて、柚珠はおじさんに迫る。



「クソッ! お前一人なら我の敵ではなかったというのにブウッ!」



「なぁにぃー? 聞こえないなぁ」



柚珠はおじさんの顔面を踏み潰す。



「ガッ! ブッ! ゴボ! ゴフ!」



何度も何度も、歯がこぼれ落ちてもやめない。



「おい、柚珠。その辺にしろ。このおっさんは一般人だ」



「関係ないんだけど」



「可愛い靴が汚れてるよぉー」



「すでに汚されてるの! 高かったんだからねっ! 服の恨み!」



見かねた先輩と雷地が説得を試みるが、火に油を注ぐ結果となった。