「結界の外に出れば、言い訳しなくていい!」



先輩は、私が召喚しないのを、結界のせいだと思ってらっしゃる?



「月海、逃げろ!」



「おっと、みすみす逃がさんよ」



私の退路を塞ぐように、頭の無いマネキンが隊列を組む。


先輩が必死になって私を逃がそうとしているからか。

私がおじさんから逃げきれば私たちの勝ちという空気になっている。


イカネさんの召喚はしないと言っているのにね。


彼らが何を考えているのかは、正直わからない。

足元には、無力化されたビスクドールが転がっていた。

私の直感が言う。



これでいい、これを使えと。



私は右掌から矢を抜き、溢れ出た血で、二体のビスクドールに向けて空に五芒星を描いた。


逃げる必要はない。

だって、召喚できるし。



「来なさい! ツクヨミノミコト! スサノオノミコト!」



器は、この騒動のために持ち込まれた、術具として最高のドール。

奇しくも、器を探すという当初の目的を達することになった。



「ツクヨミノミコトとスサノオノミコトだと!? 我が結界の中だぞ!」



おじさんが驚きの声をあげた。

眩い光が、視界を白に染める。



「ハッタリに決まってる! そう簡単に高位の神が喚べるものか! そんなのができるとすれば、我らが当主様くらいのもの………!」



光が収まると、二体のビスクドールが浮いていた。



「あははは。ハッタリだってさ」



月光のような銀の長髪と金の瞳の美少女ドールから、ツクヨミノミコトの声がする。



「私を選んでくれて嬉しいよ、月海。オモイカネより私の方が役にたつ」



だって、他に選択肢も無かったし、イカネさんとは違って暇そうだったし。


とは、言わないでおこう。

喚ぶことを選んだのには違いない。



「目にもの見せてやろう」



海のように深い青の長めの髪とエメラルドグリーンの瞳の美少年ドールから、スサノオノミコトの声がした。