「火宮の落ちこぼれ君、弟の花嫁を我らにくれないか?」



こいつ、狙いは咲耶か。



「挨拶する相手が違うが。お前、コノハナサクヤヒメの生まれ変わりが欲しいのか」



「火宮家と一緒にするな。我らが欲しいのはそんなものじゃない」



「ぷっ!」



「そこのお前、何故笑う」



「いえ、なんでも……」



口に出せないけど、今まで特別扱いされてきた咲耶がそんなもの扱いされて、小気味よかっただけです。

あれ?

でも、コノハナサクヤヒメの生まれ変わりではない咲耶が欲しいって。

…………もっと特別扱いじゃん!



「あの女に、生まれ変わり以外の価値があんのかねえ」



「知らぬならよい。……ああそうだ、弟の花嫁の代わりに花嫁の両親でも良いぞ。花嫁の兄弟がいるようならそちらも良いな」



先輩が私に目配せしてくる。

私は首を小さく横に振った。

私は何も知らない。



『あいつの狙いは天原家のようだねぇ。誰でもいいなんて節操がない』



天原家は、咲耶が突然変異の超絶美少女である事以外、ごく普通の一般家庭のはずだ。

狙われる覚えはない。



「陽橘の花嫁くらい、欲しけりゃ持っていけよ」



先輩が隙なく刀を構える。



「我に勝てると思っているのか?」



「とりあえず、知ってる事全部ゲロってもらおっかー」



「どちらが優位に立っているか、わかっていないようだな」



おじさんが軽く手を挙げ、指をくいと曲げる。

すると、おじさんの後ろから洋服屋のマネキンが大量に行進して来た。

その先頭を歩くマネキンに、両腕を抱えられ引き摺られて来たロリータ二人。



「響! 柚珠!」



先輩が呼びかけても俯いてぐったりしたまま反応がない。



「桃木野の元次期当主と、その従者はこの通り。我に負けたのだ」



「……なるほどな、こっち側に被害がないのは、こいつらの成果か。つまりお前は、こいつらに負けたんだな」



「………言ってくれるな、小僧!」



「教えてくれよ、何の目的でこんな事をしたのかを」



「答えるとでも思っているのか?」



「吐かせてやるさ!」



先輩が話している間に大技の準備をしていた雷地が大剣を召喚し、マネキン集団を横から貫く。

響と柚珠を捕えるマネキン以外を真っ二つに斬り伏せ一掃した。



「間に合わせの素材を倒したくらいで調子に乗るでない!」



おじさんの周りに、五月人形や市松人形、ビスクドールなどの集団が現れた。



「あれ、人形展にあった人形だ!」



「これらが、我が主力よ。行け」



五月人形は刀を振り上げ、市松人形は髪を伸ばし、ビスクドールは水の玉や火の玉を発射するなど。

一斉に襲いかかって来た。



「ひいぃっ!」



「邪魔だ!」



腰が引けて尻餅をついた私の前に先輩が割り込み、全ての攻撃を斬り捨てた。

左右には、胴体を斬られた五月人形や、市松人形の髪が散らばる。

後ろに回り込んだビスクドールには刈り取った市松人形の髪の毛を絡め、墜落させる。



「クソッ、数が多い!」



「ごめんなさいぃぃぃぃぃ」



「謝る暇あんなら働け!」



先輩は五月人形の放つ矢から私を庇いながら怒った。


雷地は召喚する小刀が全て市松人形の髪に絡め取られ、常磐はビスクドールの火の玉の集中攻撃を受けて火だるまになっている。

明らかにこちらの劣勢だ。



「こんなの無理ですっ! どうしたらいいんですかぁ!」