青空の覗く天井から差し込む光で、人影、改め少年達の顔がよく見えた。
私たちとさほど変わらない年頃の、普通の少年二人組だ。
「違う! 俺たちは誘われただけなんだ!」
「そうだ! こんな事になるなんて、知らなかった!」
「爆発物を投げてよこしながら、知らなかったはねえだろう」
おら、とっとと吐け。
とばかりに、少年の首に突きつけられた先輩の刀が鋭く光を反射する。
「ぉ、俺たち以外にも、集まった奴はいっぱいいる!」
「そうだ! そいつらにも話を聞いてみろよ!」
「てめえ、俺を盾にするな!」
「うるせえ! 元はと言えば、お前が言い出したんだろ!」
「はいはい。言い訳は別の場所で聞こうねー」
死角から距離を詰めていた雷地は、内輪揉めを始める彼らの手首を握り、言葉を遮る。
「触んな離せ!」
「はいはーい」
少年が振り払った、雷地の手が離れたそこには、型を取ったようにぴったりはまる手錠がかかっていた。
「うわっなんだこれ!? 重っ!」
彼らは、手錠に引っ張られるようにペシャリと倒れた。
その手錠から延びる鎖は、少年二人を繋いでいる。
「逃げられないよ?」
雷地は弱者を弄ぶ肉食獣のように心底楽しそうな声をあげた。
「くそッ! こんなもの!」
少年は、尻ポケットから出した、汚れた布の巻き付いた金槌をもう一人の方の手錠に叩きつける。
鈍い音とともに欠片が飛んだ。
「ヒュー。凶悪なもの持ってるねぇ……」
「………っ、壊れねえ!」
「俺の霊力で作った金属だ。簡単には壊せない」
「何で俺がこんな目に! ショーケースを壊すだけの遊びのはずだろ……!」
「危険な遊びだねぇ」
「いや、壊しちゃダメでしょ」
怒る少年と、泣く少年。
彼らに笑って話しかける雷地に思わずツッコんでしまった。
「他の奴らもやってる! なんで俺たちだけがこんな目にあうんだよ!」
「うーん………。俺たちに見つかったのが運の尽き、かな?」
雷地はしゃがんで彼らと目を合わせる。
少年たちは、なにか恐ろしいものでも見たかのように怯えていた。
「その金槌は呪具のようだけど、君たちからは霊力を感じない。誰からもらったの? 誘われたって言ってたけど、その人はここに来てる? 知ってるなら案内してよ」
「ヒイィィッ!」
ここからは雷地の後頭部しか見えないけど、不良ぽいプリン頭の彼は今どんな顔をしてるのでしょうか。
怯える少年を見ていると、知らない方が幸せなのかもしれないし、知っておいた方がいいのかもしれないし。
うーん。
どちらにしろ、私には助けに入る事はできません。
無事をお祈りします、ごめんね。
「くそっ! こうなったら、あの人の言ってた奥の手だ!」
「おい! 本気でアレを使うのか!?」
「仕方ねえだろ! このまま捕まるくらいなら、逃げれるかもしれない方にワンチャン賭ける!」
「なになにー? 何の相談?」
「頼んだ、相棒!」
少年は、金槌を出した隣のポケットから短冊のようなものを取り出して。
「おいやめろっ、俺に向けるなァァアアアアァァァァァアアア!!」
青ざめているもう一人の少年の額に貼り付けた。
すると、短冊を貼られた涙目な少年の肉体は、バキゴキと音を立てて膨れ上がり、服や雷地のつけた手錠が弾け飛ぶ。
先輩たち三人は、後方に跳んで巨大化するそれに潰されるのを回避した。
「ありゃりゃ。器にされちゃったねえ」
私のすぐ横に跳んできた雷地が唇の端をペロリと舐める。
「悪霊に取り憑かれたか!」
「月海。よく見ておけ、あれが憑依だ」
常磐と先輩も、こちらに合流した。
「アアアァァァアアァ……」
少年の巨大化が止まる。
3階建の建物くらいある身長。
人の顔面を集めてできたような青白い皮膚からは怨嗟の声が聞こえてきそうだ。
憑依とは、こんなに悍ましいものなのか。
「かわいそうに。裏切られて、こんな姿に」
そう言う割に、剣を追加召喚して、雷地は楽しそうですね。
「戦闘狂がよ……」
先輩も同じことを思っていたのか、ぽつりとこぼした。
私はもう一度、少年が変化した姿を見る。
落ち窪んで、淀んだ光を放つ目がこちらを捉えた。
もしかして、ツクヨミノミコトが憑依している時の私の身体も……。
『私はあんなに醜くないよ』
ツクヨミノミコトが心外だと言わんばかりに反論した。
「あ、あはっ、あはははは!」
常磐に首根っこを掴まれている、お札を貼った方の少年は、相棒の変わりように、恍惚に乾いた笑いをこぼした。
非現実的な出来事に、正常な意識は残っていないようだ。