揺れが収まる。



「…………」



「…………」



「…………っ」



「…………に、逃げろおぉぉぉっ!」



「キャァァァアアアア!」



「ワアァァアア!」



誰かの叫びが呼び水となり、悲鳴と狂乱で出口を求める。



「……………ま、お……ち……………」



館内アナウンスがかき消されて届かない。

圧倒的物量の人波に押されても微動だにしない常磐を盾に、先輩の腕から降ろされる。



『ああっ……。もったいない』



お姫様抱っこの終わりを残念がるツクヨミノミコトの声は無視。

汚いものを払うように、先輩に触れていたところを叩いた。



「行くぞ」



常磐を先頭に、雷地と先輩が歩き出す。



「えっ? どこに? 出口は逆……」



戸惑いながらも、私は先輩たちの後をついて行く。

常磐に割られた、私たちの横を抜ける人に、時折迷惑そうな目を向けられる。



ほとんどの人が出口へと逃げ、広くなった店内を横並びで歩く。



瓦礫の向こうに逃げ遅れた人がいれば、どけて出口へ誘導したり。

出口へ走る最後の人と別れ、しばらくして非常電源が切れた。

崩壊した建物の隙間から差す僅かな光を頼りに店内を歩く。



「幸い、死者はいないようだ」



常磐が確かめるように口にした。

彼らは今、見回りをしているのでしょうか。



「お尋ねしたいんですが、避難誘導は、店員さんの仕事じゃないんですか?」



店員じゃなくても、これから来る消防とか、救急隊とか、少なくとも客であり、一般人である私達の出る幕じゃない。



見知らぬ土地に独り彷徨うのは嫌なのでついていっているが、正直、私はとっとと避難したい。



「お前、気づいてなかったのかよ」



前を歩く先輩にため息をつかれた。



「何がですか」



「俺たちが今、何をしてるか」



「災害救助のボランティアですよね」



「似たようなもんだな。少なくとも、自然災害ではなく、人災だが」



「勘当されたといっても、五家の人間だからねー」



つまりどういうことか。

質問しようとした瞬間。



「気をつけろ! 来るぞ!」



常磐が叫んだすぐ後に、爆発音がして、瓦礫が真上から降ってきた。



「チッ、邪魔くせえ」



「俺がやる」



先輩が刀を顕現させるより一瞬早く、雷地が空中に手を翳した。

大剣が数本現れ、勢いよく射出されたそれは真上に落ちてくる天井を粉々に砕く。

剣はそのままプロペラのように回転し、風圧で、砕けた天井はどこかへ吹き飛ばされ、私たちに破片ひとつ落ちてくることはない。



「……すごい………」



「フッ。余裕」



思わず感嘆の息をもらすと、雷地はドヤァと虚空を指差した。



「グアッ!」



雷地の指先から射出された小刀が、人影を掠める。



「気づいてるよ」



「っ、クソッ!」



「えっ、人!?」



人に向かって刃物を投げるなんて、何してんの?

雷地に刺された人影が、猫背になりながらも逃げるように走った先。

物陰から飛び出した人影が、こちらに向かって何かを野球投げしてきた。



「くらえっ!」



「フンッ!」



その何かは、常磐の拳によって天高く打ち上げられ、天井の穴を広げて、外で爆発した。



「えー………」



「はっ、素手かよ」



「やるねー」



全てに驚き、空いた口が塞がらない私と違って、先輩と雷地は常磐が素手でそれをしたことに納得を見せていた。



「なんなんだよ! こんな奴らがいるなんて聞いてないぞ!」



「逃げろ!」



「通行止めだ」



「ひいいぃっ!」



人影の逃げる先に先回りした先輩が、刀を向ける。



「お前達が犯人か?」



挟み込むように移動した常磐が、鋭い声で問う。