地下とは違い、陽の当たる地上の部屋が暖まるのは早い。

が、冬なのでそれなりに寒い。


エアコンフル稼働中だが、若干、外の方があったかいまである。

薄くなった氷を自力で砕いて出てきた柚珠を加えた皆で、テーブルを囲み、あたたかいお茶を飲む。



「そういえば、お前っていつまで式神出し続けるのさ?」



思い出したように、雷地が聞いてきた。

私は、彼の顔を見て首を傾げた。



「どうしてそんなこと聞くんですか?」



「心配してんだよ、今は一応仲間だからな」



「はあ………」



意味がわからない。

そんな私の気持ちを察したのか、雷地は不機嫌そうに眉を顰めた。



「疲れないのか?」



「イカネさんが邪魔とかぬかしやがったら許さない」



非力ながらも拳を振るう準備はできている。



「ちげぇよ。式神は、喚ぶのもそうだが、維持するのも霊力を消費し続けるんだよ」



「だから何ですか?」



「ただでさえ有名な神は霊力を馬鹿食いするんだ。俺のタケミカヅチでも厳しいのに、オモイカネだぞ?」



イカネさんが大食漢みたいに言わないでほしい。



「霊力が足りなくなると、頭痛や、死んだように眠ったり、個人差はあるが何かしらの不調がでるんだ」



ため息混じりに言われても困る。


私は雷地の言っていることがわからず、眉を顰めた。



「無理すると寿命を縮めるぞ」



私が聞く耳を持たないと思われたのか、鋭い眼差しを向けられるが、言われていることがわからない私は首の角度を深くする。



「…………はぁ?」




失礼なことを言われているってことはわかるよ。


助けを求めるようにイカネさんを見るが、微笑まれるだけ。


相変わらず美しい。


彼女は雷地の発言を気にしていないらしい。



ならば、私も気にしない。


にへらっ、と微笑み返した。



「あー、多分、こいつは大丈夫だ」



いまいち噛み合わない私と雷地に、何か知ってそうな先輩が助け舟を出してくれるようだ。


たまには役にたつじゃないか。



「大丈夫って?」



「こいつは、その辺の術者より霊力が多い。スサノオノミコトとツクヨミノミコトの生まれ変わりだからな」



「……マジかよ」



「………………うん、そうみたい」



この場にいる全員の視線を浴びて、私は頷いた。

質問攻めにしてきた雷地も、腑に落ちたように頷く。



「なるほどな。生まれ変わりは、平均より霊力が多いと言われている。それが三貴神に数えられる神なら尚更か」



「長時間出し続けて、しかも術も使わせても平然としてるとは羨ましい。俺もイワナガヒメと耐久筋トレしたいぞ!」



「で? 生まれ変わりって、どんな感じ? 神界の事覚えてたりするの?」



「………興味深い」



常磐、柚珠、響が口々に感想をこぼす。

イカネさんと長時間一緒にいれると思えば、生まれ変わりは悪くないと思ってしまう。


どんな感じ、か。

意識して考えた事なかったな。

…………強いて言うなら、うるさい、かな。



『失敬な』



このように、すぐ反応するから。



「簡単に言うと、口うるさい同居人がいるみたいな感じ」



ピンときていない彼らに、私は自身の話をした。

仲間なのだから、話しても良いだろうと、包み隠さず。


彼らの百面相には、少しだけ笑えた。



「ツクヨミノミコトとスサノオノミコトと会話している?」



「ツクヨミノミコト達の力を使おうとすれば、身体を乗っ取られるか………」



「そこのオモイカネのように、召喚はできないのか?」



「あまりにも高位だから、意識を呼ぶだけで精一杯なんじゃない? これだから素人は……」



「……式神持ってないくせに口出しできるの?」



「うるさいっ、響だって持ってないでしょ」



彼らの考察は続く。



「彼らに身体を貸して、戦っているだと?」



「自分の意思で、彼らの能力が使えない?」



そうね。

意識しても、長時間かけて手汗くらいの水しか出てこないし………。

……………あれ、手汗かぁ。



「お前、それ、生まれ変わりというより、どちらかというと憑依じゃないか?」



「憑依は続けていると寿命を縮める。力のある神なら特に」



「せっかく高位の神が喚べるというのに、惜しいな」



「憑代があればいいんじゃない?」



「大抵の式神使いは、お札を依代に喚んでるしな。いいんじゃねぇか?」



「………じゃあまず、材料を揃えないと。半端なものは逆に危険」



そろそろ答えが出たらしい。

つまり私は、生まれ変わりではないらしい。

ただの、霊力を多めに持つ式神使いだ。



「てことは、あのひとたちの力を使うことは、私の実力として数えてもいいの?」



「たとえ生まれ変わりだったとしても、できることは全てやるのが当然。出し惜しみなんかして負けて、言い訳されても、勝った方が勝ちなんだから」



奇襲を躊躇いなくできる柚珠が言うと説得力がある。



「なんのこだわりか知らないが、戦い方を選ぶのなら、実力をつけてからすることだ」



彼らの言うことは正しい。

勝てば官軍なのだ。


彼らのアドバイスを実行するなら、まずは、身体を乗っ取られないために依代を用意しないと。

そして、私自身も鍛えて、戦えるようになる。


気付けば口角が上がっていた。



「さて。稽古場の自動修復も終わった頃だし、行くか」



「桜陰、まず俺と戦え!」



「次こそ倒す」



「………ふっ」



「うん」



「元気有り余ってるねぇ。俺もだけど」



先輩の稽古再開の号令に、皆が気合の入った返事をする。

楽しみなことがあれば、気合も入るというもの。

ようやく、ツクヨミノミコトとの脳内会話から解放される。



『私との会話が嫌みたいな言い方だね』



解放されると思えば、寛大になれる。



『その顔は何だい?』



「ふふっ」



最後尾で稽古場に向かいながら、明日の買い物に思いを馳せた。