「ふぅ……」



リビングで暖かいお茶を飲んでほっとひと息。

隣に座るイカネさんが淹れてくれたという事実だけで数倍美味しく感じる。

目が合えば、微笑んでくれる。


幸せ。好き。


地下にある稽古場は無人になると自動修復機能が働く。

今ごろ、抉れた床や、焦げた壁も、新築同様元通りになりつつあるはずだ。



「期間限定ゆずしょうがポテトチップスみたらし団子味、なかなかいける」



「ポテ……? みたらし…………?」



「常磐も食べなよ、そんな歯が欠けそうな瓦せんべいなんてやめてさ」



「遠慮しておく。雷地こそ、ゴムのような食感はやめて顎を鍛えてはどうか?」



「………クッキー、マフィン、ケーキ、マカロンに合わせる飲み物が青汁って何?」



「霊力を使ったらお腹空くの。美容も大事でしょ。最強の組み合わせじゃん。湿気を纏った根暗は黙ってて。ボクまでキノコ生えちゃう」



異臭を放つぬれ煎餅もどきの雷地や、およそ食べ物とは思えない音をたてる瓦煎餅常磐、えぐい食べ合わせの柚珠は見ない事とする。


いや、他人事なら楽しいかも。

ついつい目で追ってしまうから。



「………きみはキノコ生やす側だろ植物使い」



「あぁん? 喧嘩売ってんの? やる? やっちゃう?」



響の小声に耳聡く反応する柚珠は爆発物か何かか。



「………胞子撒き散らさないで。キノコ生える」



「生やしちゃうよ? ご期待に応えて生やしちゃうよ?」



「………青汁からなんか生えてきてるし。まあ、僕が飲むんじゃないけど」


自家製エナドリを飲み終えた響にとっては他人事。

犠牲者は他にいる。



「うおおおぉぉぉい! 俺のポテチにキノコ生えたんだけどオカマ野郎!」



「瓦煎餅は最強だ! お前も食え!」



「ボクのマカロンが……!」



「………自分の能力でやっちゃざまあないね」



「許すまじ根暗!」



バイオテロかな。

換気換気。


窓を開けて、外の空気で深呼吸。


空気が美味いぜ。



「よし、できたぞ」



「わーい! ありがとご主人様」



「ありがとうご主人様」



「おう」



風上で、胞子の被害がないキッチンで、ヨモギ君とマシロ君が、先輩からできたてのわたあめをもらう。



「んーっ! あまーい!」



「あまーい!」



「ふわってとけておいしいね」



「おいしい!」



ひとつのわたあめを分け合う子どもたちをみているとほっこりする。

先輩も、子どもたちを見て微笑みを浮かべていた。


日々私をボコってくる俺様大魔王様が子どもには甘いところを見ていると、なんかこう、むずむずするというか。

その優しさのひとかけらでも分けてくれたっていいじゃない。



「何見てんだよ」



「なんでもないです………」



私は大袈裟に顔を背けた。

私にも優しくしろなんて思ってることがバレたら、また酷くボコられそう。

よし、この後の手合わせで浄土寺常磐には、私の代わりに先輩をボコってもらおう。



『先輩はそんなに弱くないよ』



ツクヨミノミコトよ、夢を壊さないでおくれ。



『現実を見なって。目を逸らしていたらいつまでも成長できないよ』



正論で殴らないでおくれ。

ブロークンハートなんだから。


先輩は、他の4人のように派手な術を使えるわけではないが、その剣術は流麗にして剛気。

それは、先輩の努力によるものとよくわかっているつもりだ。


天井からキノコが降り出すが、イカネさんの発した冷気で凍り砕け、雪のように舞った。



「いい加減になさい」



氷のように冷たい声を出したイカネさんは、ヒートアップして靄のように胞子を吹き出す柚珠を一瞬にして氷漬けにする。


部屋の温度が急激に下がった。

冷凍室再び。


術で作った氷のかまくらに入った響がぼそりとつぶやく。



「………もうこいつ、ずっとこのままでいいよ」



いや、それはちょっと…………。

稽古場の自動修復はまだ終わらない。