「能力が目覚めて1年も経ってない奴に向かってくって、プライドねぇのかよ」
「うっさい! この世界は年数とかかんけーないの!」
「………嬉々として年下ばかりに勝負しかけときながら、それを言うの?」
「でも確かに。俺らのリーダー様の実力、見ておきたいなぁ」
「柚珠は連戦になるな。なんなら俺が出よう」
「引っ込んでてよ筋肉達磨。ちょうどいいハンデでしょ」
ハンデじゃなくて、憂さ晴らしって言うんだよ。
私の実力をよく知る先輩に視線で訴える。
気づいた先輩は、心底楽しそうな笑みを浮かべて。
「だそうだ。月海、お望み通りやってやれ」
嬉々として売られた。
一瞬、先輩が味方してくれたと思った私が馬鹿だった。
不安なのは、私が先輩以外とまともに稽古したことがないということ。
相手は日夜、響を倒す為、実戦で腕を磨いているお方だ。
私のような一般に毛が生えたような初心者は、無事ではすまないだろう。
『私に変わりなよ。無傷で終わらせてあげるから』
それじゃあ私の訓練にならないでしょう。
『えー。痛い思いしたいの? そんな嗜好の持ち主だったの?』
んなわけねぇでしょ。
わかってて言わないでよ。
しかし、痛みなくして強くなれるかと問われれば、凡人な私がそんなわねないじゃん、てなことで。
かといって、負けは許されない。
さてどうしたものか。
棒立ちで考えていた私の腕ごと、蔦が腰に絡みつき、少し前まで響の立っていた位置に引き摺られた。
痛いて。
運ぶなら、もっも丁寧に運べ。
そして、開始位置まで私を運ぶ役目を果たした蔦は消えた。
この辺は公平であるらしい。
柚珠が見下すように顎を上げているのがわかる。
勝ちを確信しているようだ。
「双方構えろ」
審判役の常磐が片手をあげる。
先輩と雷地は常磐の一歩後ろで高みの見物。
と見せかけて、雷地は先輩の動きに気を配っている。
先輩が不正をしないよう監視のつもりか。
残念ながら無駄な労力ですよ。
あの極悪非道俺様大魔王は、私がボロボロになったとしても助けに入らない自信がある。
ヨモギ君も私に見向きもせず、マシロ君とお話ししている。
先輩の命令しか聞かない彼のことだ、回復術はあてにできない。
響は実験を再開するかと思ったが、私たちの方を見てくれている。
応援してくれているなんて、勘違いはすまい。
研究熱心な彼は、次なる柚珠との戦いの為データ集めをするのでしょう。
……四面楚歌じゃん。
「始め!」
常磐が上げた手を振り下ろした。