朝ごはんを済ませると、地下稽古場に全員が集まった。

紺色のスウェットに白衣を羽織った響。

パステルカラーのチアガールのような服の柚珠。

金のアクセサリーをジャラジャラ身につけた、ホストのような雷地。

袈裟に大粒の数珠という、僧侶のような衣装の常磐。



………これから稽古するので合ってるよね?



自身の格好を見下ろす。

ただの芋ジャージな私が場違い感半端ないよ。

半目で隣を見れば、芋ジャー仲間でありながら、顔面偏差値の高さでおしゃれに着こなす先輩が手を叩き、注目を集める。



「今日から早速、合同訓練を開始する」



俺様全開で宣言する先輩。

朝の爆発は、訓練に含まれていなかったようだ。

横目で確認したが、柚珠は響に射殺す視線を向けている。

犬猿の仲が確定した。



「てゆーか、なんで桜陰が仕切ってんのさ?」



「俺はそこのリーダーと一番付き合いが長いから、当然だろ」



そこのリーダー、のところで、親指でくいと指された。


先輩との付き合いの長さなんて、他の人と比べても誤差でしょうが。

まあ、仕切るなんて柄じゃないんで、いいんだけど。



「当然じゃないしー。術もまともに使えないくせにー」



「火宮に従うみたいで気に入らない」



「俺は俺のやりたいようにやる!」



「うるせぇ! 負けたやつに拒否権があると思うな!」



横暴だ。

しかし、昨日の騙し討ちも有効なようで文句は消えた。


実力主義は、こういう時面倒がなくていい。



「我々は同盟を組んだ、いわば仲間だ。協力して生き残るために、出来ることとできないことをお互いに知っておく必要があると俺は考えている」



先輩の意見に、半分の者が眉を顰めた。

そのうちの一人、柚珠が挙手し、発言する。



「それって、手の内を見せるってことでしょ。後々敵になるのに?」



柚珠は美少女と見紛うほどの愛らしい顔を膨らませて、先輩に上目遣い。

しかし先輩は呆れた顔で見下ろすのみ。

学校一人気で美少女に囲まれ慣れている先輩に、いくら可愛いといえど男の誘惑は通用しない。

中身を知っていたら、なおさらだ。



「チッ」



脈なしとわかると、柚珠は舌打ちして唾を吐く。

先輩は片手を振ってそれを風圧で跳ね返し、吐いた唾は柚珠の頬に当たった。


これぞ、自業自得。



「お前達は、庇護を求めてこの家に来たんだろう? 弱いままでこの先、生き残れるつもりでいるのか?」



「そんなの……」



「所詮、今のお前らの奇襲など、なんの障害にもならない。使えもしない手札など、いくらあったところで無意味。一人で修行するのか、第三者に意見を求めるのか。どちらがより早く強くなれるか、考えるんだな」



柚珠は今日も響に喧嘩を売っていた。

短期間で複数回仕掛けるなら、明かしていない手数は多い方が有利だろう。

しかし、結果は知っての通り。

小手先だけの足掻きなど、最後には圧倒的な力に押し潰されるだけ。

それがわからない彼らではないだろう。

先手を取るから有利になるなら、後手に回る不利を覆すために何をすべきか。

先輩の安い挑発に、わざとらしい笑顔で常磐と雷地が乗る。



「ハッ! 弱いくせに偉そうだな。昨日俺に勝てたのは、たまたま奇襲が成功しただけに過ぎん。あまり俺を舐めるなよ。今日よりも明日、俺は強くなっているぞ!」



「だね。姫プのつもりなら、俺たちはお前を捨てていくよ」



「むっ、そんなんじゃないしぃー」



唯一挑発に乗らず、味方を失った柚珠は、頬を膨らませたまましぶしぶ引き下がった。

しかし、彼の目は隙を見せれば噛みつかれると錯覚するほどに鋭い。


馬鹿なように見えて、強かなところも、妹とそっくりだ。

植物使いって、みんなこうなのかな?


響は響で無関心である。

なにか別のことを考えているようで、虚空を見つめていた。

あんなに絡まれてたのに、無視し続けるのはすごいよ。

その辺の羽虫程度にしか思ってないのかな。


先輩は全員を見回して、反対意見が出ないことを確認してから、ひとつ頷いた。



「じゃ、さっそく訓練といくか。まずは、それぞれの強みと課題を知る事だが……」