同盟者の様子を確認。

先輩は、恐怖に支配された女子にしがみつかれて、身動きが取れないようだ。

両腕にお荷物を抱えていては、ペンダントにも手が届かない。

響達も、向こうさんの生徒の集団行動から外れたことはできない。

そもそもこれは、何の授業なのだろう。

祓うだけなら既に終わっている。

ヒーロー達は体の自由を取り戻したから。

架空の敵を作り出した今、考えられることは……。



『パフォーマンスだねぇ。目に見えないものを信じない、感じない奴を納得させる為、目に見える形で超常の異能を見せつける。そしたら説得力も増し、交渉を優位に進められるだろう。……実際はあの程度だけど』



交渉が目的であるなら、私達に危害を加える事はしないだろう。

かといって、敵は水瀬の幻覚だけではない。

混乱した生徒だって、危険物のひとつだ。



『月海に幸運を与えよう』



ツクヨミノミコトが言う。

前方不注意で私に体当たりをかますところだった男子が、横から体格のいい男子生徒に吹っ飛ばされた。


私のために犠牲になってくれてありがとう、なんて思わないからね。

犯人が明らかである以上、素直に幸運を喜べない。


もっと別のやり方があったんじゃないかなぁ?



『せっかく助けてあげたのに、文句言うの? ひどい人……』



いくら問題児ツクヨミノミコトといえど、しょんぼりした声を出されて、心が痛まないほど、私は悪い人間じゃない。


助けてくれたことはありがとう。

お陰で怪我はなかったわ。



『ふふっ、どういたしまして』



弾んだ声。

この変わり身……無駄に傷んだ心が後悔に涙しているわ。

ツクヨミノミコトがこういうひとだとわかってたじゃないか。

学習しないなぁ私!



『ふふふっ』



イカネさんの微笑みは美しいのに、ツクヨミノミコトの微笑みは嘲笑にしか思えないの何でだろう。


演技に騙される方が悪いって?

どちくしょうめ!

学習しろよ私!