水瀬に全神経を集中している先輩の両腕、腰には、女子の腕がからみついている。

やんわり解いても別の手に捕らわれ、それが繰り返されることによって複雑に絡み合っていく。

その解き方ってのが、ノールックのせいか、やけに緩慢に指先をすべらせるものだから、見てはいけない花園でも覗いている気分になる。

まずい、洗脳された。



『………あれでは、有事の際、出遅れる』



スサノオノミコトは、ツクヨミノミコトとは違う視点で先輩を見ていたようだ。

女子の拘束を解く動作にかかる時間のロスは、1秒以下を争う状況下において、決して無視できるものではない。

そうそうこっち、こっちの考えが健全。

さて。


神水流家を乗っ取られた響。

そこに現れた水の術師が、この場を仕切る。

無表情を装って水瀬を警戒する響の様子からも、無関係と断じる方が無理がある。

雷地、柚珠、常磐は授業の一環。

大人達に逆らう行動をとれば、問答無用で成績に響くだろう。

個人的な介入は期待できない。

いや、授業なら一般人を助けるという意味では期待していいはず。

そう考えると、この中では、ただのぼっち一般生徒な私が、一番自由に動ける。


ぼっちも悪いことばかりではない、いや、ぼっちはもとより悪いことじゃないし!


……おっと、クールダウンクールダウン。

服の上からペンダントを握り、深呼吸。

一層に気を引き締めた。



「うわあっ!」



「な、なんだ!」



「キャアァァッ!」



ステージでは、車椅子に乗った男子生徒達の周りを水が渦巻き、飲み込み、一般生徒から悲鳴が上がった。

水を飲み込んで、苦しそうにもがく男子生徒達が体をビクビク震わせる。



「お、おい、大丈夫なのかアレ?」



「事件じゃね?」



「警察呼ぶ?」



さすがにまずいと思った生徒達が、互いの顔を見合わせて、それでいてステージ上から目を離せずにいると。



「ゴボッ……」



「キャアアアァァァッ!」



「うわ! なんだアレ!」



「気持ち悪っ……」



「口から、黒いものが出てきて……!」



男子生徒達の吐き出した黒い煙のようなものが水に溶け、青黒く染まる。

絵の具を溶かした水を洗い場に流すように、青黒い水が男子生徒達から剥がれると、水瀬の正面でスライムのように集まり、うにょうにょ蠢めく。

それはやがて、人の形をとり。



ブシュッ!



と、破裂した。

水瀬は両手で印を結んだまま、ステージ上を汚す青黒い水から目を逸らし、私たちに向かってなんでもないことのように微笑む。



「……………」



「……………」