そいつはいつも俺にからんできた。同じクラスの榎本だ。
「長谷川君、何部入るか決めてないんでしょ。なら陸部入りなよ。俺もいるから」
「お、俺そんな足速くないよ…」
「そんなことないよ、だってなんかすごい足速そうなメガネしてるじゃん」
「は、はぁ…」
「それに中学までバリバリ運動やってそう。理科部とか」
こいつ俺をすっげーイジッつてくる
M体質にS体質が磁石の如く引きよせられるのは自然の摂理だ。そんなわけで弁当、休み時間、移動教室となにかと榎本と一緒にいるようになった。
ちょっと待て、俺はMなんかじゃねーぞ。たぶん、
榎本は勉強はできないがやたら悪知恵がはたらくというクラスに1人くらいいる腹黒いやつだ。たまにこいつが何考えてるのかわからなくて不安になる。
それでも県陸上界では有名な選手らしい。ほんとかよ、
「榎本って、何の種目してんの」
「棒高跳びとハンマー投げ」
「…うそつけ」
こうして年度始めの不安要素のひとつは早くも取り除かれるのだった。