「奴隷、あなた、きれいになったわ、髪と肌と目はね。全体的には醜くて見えたもんじゃないけど」

 奴隷は頬を染めて、嬉しそうな顔を向ける。私のお古のドレスを私よりも着こなして、もとより所作が美しいために、私よりも気高く見える。
 そのうち、私の背も追い抜いてしまって、すらりとした肢体に、輝く髪をなびかせるようになった。
 本当に気に食わない奴隷だ。
 その肢体に輝く髪が忌々しくて、私は奴隷にはぼろぼろのドレスしか着せなかったし、髪も短く刈り込んでやった。
 なのに奴隷は、自分を大事にしてもらっていると思い込んでいるらしく、私とハンナを神様を見るような目で見てきた。ご飯を与えたり、お風呂に入れてやったり、ベッドに入れてやるたびに、私とハンナの手にキスをした。
 そのうち、言葉を介するようになり、さらに喋るようになった。

「姫さま、可愛らしく心優しい私の姫さま。ハンナさま、明るく温かい私のハンナさま」

 そんな風に言ってくる。奴隷の祖国では、会話にお世辞を混ぜるのが言語仕様なのか。
 奴隷は今、私の足台になって、絨毯に背中を丸くしているために、私におべっかを言うたびに、奴隷の横腹を蹴ってやった。

「気味が悪いから、お黙り。足台のくせに喋らないで」

 私は奴隷の背中にドンと足を置いた。奴隷は痛がりもせず、いかにも楽しそうに笑った。まるでじゃれ合っているような錯覚に落ちてしまう。

「私が姫さまの足台なのは、王妃さまたちがいらっしゃるからでしょう?」

 私は北に面した部屋で日がな一日ハンナと過ごしていることが多いのだが、継母に弟妹らがときおり思い出したように、私の部屋に訪れることがある。
 手作りのクッキーを持ってきてくださるのだ。
 私は継母の目の前でそれを口にするが、必ず後で吐き出さなければならないから面倒だ。胃液で喉も口も傷む。しかし、吐かなければ半日後にひどい頭痛に襲われるという体質だから、吐くのを忘れてはいけない。