「そういえば最近、女装してる時に高瀬と絡んでる?」
「ううん、何も。ていうか、お店に来なくなった」
「やっぱり」
「やっぱり?」
「うん、俺が赤井にキスした日、高瀬も偶然教室にいて。赤井が店で女装してるって話をあいつに聞かれてたから……」
「……えっ?」

 高瀬がいたこと、僕は全く気づいていなかった。
 もしかして、だから店に来てないの?

 明らかに高瀬は女装した僕、優香に気があると思う。そして学校での僕、赤井優斗に対しては冷たくて、嫌いなのがひしひしと伝わってくる。

 もしも僕が高瀬だったら、好きな女の子が実は嫌いな男で……感情ぐちゃぐちゃになるだろう。

 高瀬にとっては、ずっと騙されていたわけで――。

 明日学校で高瀬に謝ろうかな。いや、明日は土曜日だから学校は休み。多分、連休中は店にはこないし、連絡先も家も知らない。

――僕は高瀬のことを、あんまり知らない。

 確実に知ってるのは、高瀬が大好きなものは足湯ってことだけ……。

 もしかして、足湯にいたりする?
 そんな予感がした。

「黄金寺、僕、今からひょう花に行ってこようかな? 高瀬がいるかもしれないから」
「今から?」
「うん。高瀬に嫌われたくないよ……でももう優香の僕も、全部嫌われてそうで、怖い……」

 言いながら泣きそうになる。

「……きっと、大丈夫だよ。足湯に行ってきな?」
「うん」
「もしも上手く行かなかったら、俺のところにおいで?」
「黄金寺……」

 黄金寺はふふっと笑った。
 いつもよりも力のない笑みだった。

 僕は帰る準備をする。黄金寺に「ありがとう」を伝えると、急いでひょう花に向かった。